白馬八方温泉と太古のロマン

生命の起源という壮大な謎を解くカギが白馬八方温泉に

監修・資料提供
東京工業大学地球生命研究所
東京都目黒区大岡山2-12-1-IE-1 所長 廣瀬 敬

白馬八方温泉を「科学の目」で見ると

「美肌の湯」として親しまれている白馬八方温泉。pH11を超える強アルカリ性の泉質により、肌触りが柔らかく、すべすべする感触が特徴です。また、入浴による心身のリフレッシュと併せて若々しさを保つ効果が期待されると言われています。

お風呂という側面ではこのような特徴がある白馬八方温泉ですが、「科学」という視点に立つと途端に、私たちに壮大な地球のドラマと太古のロマンを見せてくれます。それは、白馬八方温泉の泉質が、地球生命の研究にとって大変貴重で重要な意味をもっていることに起因します。

 

生命はいつ、どこで、どのようにして生まれたのか

地球誕生は今から約46億年前、生命の誕生は約40億年前と言われています。では、生命はどのようにして生まれたのでしょうか?

現代に残された3つの大きな謎は、「宇宙の起源」「生命の起源」「脳の起源」と言われています。これらは、いくつかの理由によって研究が停滞してきた歴史を持っています。しかし、生命の起源については、近年さまざまな分野の参入により、学際的な研究が急速に盛り上がってきています。2012年12月に設立された東京工業大学地球生命研究所(東京都目黒区 所長・廣瀬 敬)では、地球科学、生命科学、惑星科学を中心とする様々な領域から研究者が集い、「地球と生命の起源」の謎に挑む研究が行われています。

生命の起源では「海底熱水説(特に蛇紋岩(じゃもんがん)熱水)」が有力な説のひとつです。これは、海底や地表に露出したカンラン岩(橄欖岩)と熱水が反応して炭化水素などの有機化合物を組成し、生命のもととなったという説です。

東京工業大学説明会資料より

地球上では珍しい場所・白馬八方

岩石の表面に蛇のような紋様が見られることから名づけられたと言われる蛇紋岩。これは、カンラン岩という地球深部のマントルを構成する岩が、地殻変動などで海底や地表に現れた際に、水と反応することによって組成されたものです。

白馬エリアでは、地表に蛇紋岩が表出していることが知られています。また、火山列が縦断しており、これにより蛇紋岩のエリアに温泉が存在する非常に珍しい場所となっているのです。さらに、白馬の蛇紋岩の地表分布は世界でも屈指の規模を誇り、アクセスの良さも併せ、白馬エリアは研究対象として大きな注目を集めています。

 

生命の誕生の環境に極めて近い温泉の質

2007年より、東京工業大学の研究チームは蛇紋岩が地表に露出している白馬八方温泉に注目し、2010年以降、掘削温泉の成分分析を継続的に行ってきました。

その結果、白馬八方温泉は、強アルカリ性(pH11以上)で、水素含有率が非常に高く、生命のもととなるメタンなどの炭化水素が含まれることがわかりました。この水質は、蛇紋岩に水が反応してできる水質と酷似しています。さらに、細菌の数が他の温泉と比べて極めて少ないことと、この細菌が強アルカリ性の環境下でも生きられる特徴をもち、原始的な生命の特徴に近いこともわかってきました。

白馬八方温泉が、約40億年前の地球上に生命が誕生した時代の水質(泉質)を持っていると言っても過言ではありません。

 

世界の科学者が注目する白馬八方温泉

世界の科学者が注目する白馬八方温泉
白馬八方温泉の研究を進めていくことで、初期の地球で生命が誕生するという地球史上最大のイベントの解明ができるのではないかという期待が持たれています。つまり、「生命の起源」という謎を解くカギが、白馬八方温泉にあるというわけです。

地球生命研究所の上野 雄一郎准教授を中心とした研究チームは、2014年1月15日発行の欧州の有名科学誌「Earth and Planetary Science Letters」に、白馬八方温泉における研究成果を発表しました。また、平成26年度からは文部科学省科学研究費補助金を得て、地球生命研究所の黒川 顕教授を中心とした生命の起源に関する新たな研究プロジェクトがスタートしました。今、世界中の科学者が白馬八方温泉に注目しており、白馬は「生命の起源」を議論するのに世界でも大変貴重で、最も相応しい場所であると言われています。

黒川教授の言葉を借りると、「白馬八方温泉は生命の起源を研究する者にとって聖地となる」場所なのです。

太古のロマンに思いを馳せながら

―約40億年前の水環境を白馬八方温泉に見ることができる。その研究を進めていくことで「生命の起源」の謎に迫っていくことができる―

太古のロマンとも言うべき壮大な地球のドラマを想像しながらお風呂に浸かってみるのも温泉の楽しみ方のひとつではないでしょうか。

スキーと山のリゾート地・白馬八方に、地球生命科学というまったく異質な顔が加わりました。私たち地元も太古のロマンに思いを馳せながら、この研究活動を応援していきます。

 

◆監修・資料提供

東京工業大学地球生命研究所
東京都目黒区大岡山2-12-1-IE-1 所長 廣瀬 敬

黒川 顕 (同研究所副所長 教授)
丸山 茂徳(同研究所 教授)
上野 雄一郎(同研究所 准教授)
須田 好 (同大学地球惑星科学科博士課程)
大森 聡一(放送大学 准教授)
 
◆研究対象地
長野県北安曇郡白馬村 白馬八方温泉(管理:八方尾根開発株式会社)
 

◆企画
八方尾根開発株式会社「これからの八方50年プロジェクト」