1. 白馬八方温泉3つの最高峰
美しい北アルプスの山麓より湧き出る白馬八方温泉は、これまで強アルカリ性の単純温泉として広く知られてきました。ところが最近になり、高濃度の溶存水素を含む類い稀な温泉水であることが判明しました。しかも、3 つの最高峰という特徴が密接に織りなす、世界的にも大変珍しい個性豊かな温泉です。
天然状態では最高峰の溶存水素量
1.2 ppm 超の飽和状態で豊富に湧き出る1 号泉源
白馬八方温泉は現在、1 号と3 号の二つの泉源から湧き出た溶存水素を含む温泉水を利用しています。1 号泉の溶存水素濃度は約1.2 ppm。泉温は50 ℃強なので、ほぼ飽和状態と言えます。3 号泉は467 ppb と少ないですが、このような高濃度の溶存水素を含む温泉は目下、日本で唯一です。
還元性でも最高峰。比類できる温泉は無し
1号泉は温泉+ 水素により大気下の自然界では最強の還元性
還元性は「温泉」と普通の「水」との違いを明確に決定付ける有用な指標の一つです。還元性の高低は温泉の個性で
すが、白馬八方温泉の場合は極めて高い還元性が特徴です。とくに1 号泉は、水が酸素と水素に分解される境界線上にあり、還元性としては最強の位置付けを有しています。
pH 11.3 はアルカリ性泉としても最高峰
その起源は水素と同じく八方尾根超塩基性岩体から
白馬八方温泉は、蛇紋岩地帯から湧き出る強アルカリ性の温泉として有名です。pH 11 を超える温泉は世界的に珍し
く、日本でも数カ所だけですが、いずれも湯量は少なく、泉温も20℃以下で利用が限られます。湯量豊富で高温、地域全体で実用可能なのは白馬八方温泉のみです。
※各種測定値は、日本温泉総合研究所が1 年間にわたり各々延べ15 回以上測定した結果に基づいています
関連サイト:日本温泉総合研究所»
2. 日本で唯一、溶存水素を含む温泉

湧出直後の源泉
大気中に極めて僅かな水素が含まれているのと同様に、温泉水中にも水素は少なからず含まれているはずです。温泉水中の水素の研究例は極めて少ないですが、いずれも極めて微量です。溶存水素量に換算すると1 ppb にも満たない「無」に等しい量であり、通常の測定では観測不能です。しかし、白馬八方温泉には、これまでの温泉の常識を覆す、高濃度の溶存水素が確実に存在しています。
第1号泉源![]() |
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溶存水素量: 1.2 ppm (1,207 ppb)1 号泉の泉温は約53 ℃なので、湧出時点における溶存水素量は、ほぼ飽和状態にあることを意味しています。透明なガラス瓶にサンプリングすると、温泉水は付随ガスによりたちまち白濁し、瓶口からうっすらとした靄が漂います。 |
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第3 号泉源![]() |
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溶存水素量: 467 ppb泉源が1 号泉の至近にありながら、溶存水素濃度は低めです。この理由として、酸化還元電位が高く、温度や電気導電率は低いといった観点から、地下水の混入率が高いために酸化されるとともに、温泉水が薄められたためと考えられます。 |
おびなたの湯飲泉場![]() |
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溶存水素量: 243 ppb泉源から最も近い利用施設ですが、飲泉場の蛇口の段階で溶存水素は大幅に散逸しています。飲泉のためにコップに注いだ段階ではさらに散逸が進むため、溶存水素濃度を維持して飲泉するには、容器と注入方法に工夫が必要です。 |
八方の湯 露天風呂 | ![]() |
溶存水素量: 61 ppb湯口で120 ppb、浴槽内ではおおむね60 ppb 前後が維持されています。露天風呂は多分に空気に触れる環境にあるため濃度はかなり低下していますが、それでも天然の溶存水素が維持されている浴槽は日本で唯一です。 |
3.これ以上がない最高水準の還元性

温泉には還元性という特性があります。還元性は温泉に含まれている成分と密接な関連があり、酸化還元電位によって指標化することができます。下図は日本の主要な温泉50 カ所の源泉の酸化還元電位を示したものです。pH の違いとともに実に多様な分布となっていますが、それは温泉の個性の表れでもあります。
温泉の還元性には未だ不明点もあります
温泉の還元性には未だ不明点もありますが、おおむね含まれている成分によって異なります。白馬八方温泉の場合は、溶存水素が還元性に大きな影響を与えています。上図は「白馬八方1 号泉源」、「同3 号泉源」、そして泉源よりもっとも至近の「おびなた飲泉場」、もっとも遠い「八方の湯・露天風呂」の酸化還元電位を示したものです。
天然状態にある温泉は緑色の「還元系」の領域に分布し、塩素消毒等により人工的に酸化させられた場合は、黄色の「酸化系」の領域に分布することになります。当然のことながら、白馬八方温泉の温泉水( ▲ ) もすべて還元系となりますが、いずれも高い還元性を有していることが特徴です。とくに「1 号泉源」は、水が「水素」と「酸素」に分解される境界線上( 水素側) にあり、天然状態では最強の還元性を有しています。このような温泉は、日本では白馬八方温泉のみでしか観測されておらず、おそらく世界的にも類を見ないと思われます。
4. 類い稀な強アルカリ性の温泉

これまで白馬八方温泉は、蛇紋岩地帯から湧き出る強アルカリ性の温泉として全国的に知られてきました。pH 11 を超える温泉は世界的に珍しい存在ですが、その特徴を詳しく調べてみると、アルカリ性となる要因は、水素発生のメカニズムと深い関係があることもわかってきました。
pH 11 を超える温泉は極わずか
温泉( 水) の性質を示す指標の一つにpH ( ピー・エッチ) があります。
温泉( 水) の性質を示す指標の一つにpH ( ピー・エッチ) があります。いわゆる酸性なのか、中性なのか、アルカリ性であるのか、という区別はこのpH に基づきます。温泉は秋田県・玉川温泉に代表されるpH 1 台の強酸性から、白馬八方温泉のようなpH 11.3 ( 日本温泉総合研究所による実測) の強アルカリ性まで、幅広く存在しています。pH 11 を超える温泉は白馬八方温泉の他に、埼玉県の都幾川温泉(pH 11.3)、神奈川県の飯山温泉(pH 11.3) などが確認されていますが、いずれも泉温は20℃以下で、成分も希薄なため泉質名が付かない温泉です。
一般的に、アルカリ性が高い温泉ほど湯量が少ない
一般的に、アルカリ性が高い温泉ほど湯量が少ない場合が多く、利用も限られたものとなっています。しかし、白馬八方温泉の泉温は50℃超で湯量も豊富なため、5カ所の日帰り入浴施設と75 軒の宿泊施設、3 カ所の足湯で利用されています。これほど高いアルカリ性の温泉で大規模に利用されているのは白馬八方温泉のみです。
白馬八方温泉におけるアルカリ性の起源とは
白馬八方温泉水が強アルカリ性であることの理由
白馬八方温泉水が強アルカリ性であることの理由は、その地下にある蛇紋岩を主体とした八方尾根超塩基性岩体での反応を経て湧出してくるからだ、とされています。温泉がアルカリ性となる理由については、未だすべてが詳らかになっているわけではありません。一般的に温泉や水をアルカリ性にする要因としては、炭酸水素イオン(HCO3-)、炭酸イオン(CO3-2) の関与が挙げられます。このことから、岩石との反応により炭酸塩が溶出してアルカリ性となるメカニズムが主流であると考えられています。
一方、白馬八方温泉のアルカリ性は、おもに水酸イオン(OH-)
一方、白馬八方温泉のアルカリ性は、おもに水酸イオン(OH-) の関与によるものです。一般的に、蛇紋岩地帯から湧き出る水では、マグネシウムイオン(Mg2+)、炭酸水素イオン(HCO3-) が卓越することが知られています。このことから、ワケ知りの方が白馬八方温泉の温泉分析書を見ると、たいてい首をかしげます。蛇紋岩起源にみられる特有の成分が、まったく計上されていないからです。これは、一体どういうわけなのでしょうか。
実は、蛇紋岩地帯から湧き出る水や温泉には二つのタイプが
実は、蛇紋岩地帯から湧き出る水や温泉には二つのタイプが存在します。一つは、蛇紋岩化作用がすでに停止している場合に該当する上記のような一般的なタイプ。そしてもう一つは、カルシウムイオン(Ca2+)、水酸イオン(OH-) が卓越する蛇紋岩化作用が現在でも進行している、極めて稀なタイプです。白馬八方温泉は後者の稀なタイプに該当します。蛇紋岩化作用とは、カンラン岩などが蛇紋岩に変化することを指しますが、水素はまさにこの過程で発生します。つまり、白馬八方温泉の温泉分析書は、蛇紋岩化作用による水素生成の可能性を静かに示唆していたのです。
5.【入浴効果】 入浴により水素が体内に浸透
もともと人間の体内ではさまざまな生体ガスが
もともと人間の体内ではさまざまな生体ガスが生成されています。そのうちの一つに水素ガスがあり、呼気やゲップ、放屁などにより日常的に体外に排出されています。その濃度は、呼気では数ppm ~ 20 ppm 前後、放屁では500 ~ 800 ppm 前後が一般的に観測されますが、体調や食べ物等の影響によりその量は増減します。
一方、水素を含む水に入浴したり、飲んだりすると…
一方、水素を含む水に入浴したり、飲んだりすると、瞬時に体内に吸収されます。血流とともにおおよそ10~15分で全身に行き渡り、そして肺でのガス交換により体外に排出されます。よって、水素の摂取前後の呼気を測定し、その増減を明らかにすることができれば、水素が体内に吸収されたか、否かを直ちに判定することができます。
そこで、浴槽内の溶存水素濃度が60 ppb の八方の湯・露天風呂に
そこで、浴槽内の溶存水素濃度が60 ppb の八方の湯・露天風呂に5 分間入浴し、呼気の水素濃度に変化があるかどうかを確かめる実験を行いました。上図は入浴前と各測定点での水素濃度の差を示しています。対照データとしては、溶存水素が存在しない八方の湯・内風呂に入浴した場合( 青線) のデータを取り上げています。

この結果、入浴直後の呼気の水素濃度は大幅に上昇し、内風呂に対して有意な差があることが確認されました。出浴後は急速に呼気の水素濃度が低下しますが、入浴中は体内に水素がとりこまれていることが証明されました。日に数回、ある一定期間続けて入浴をする湯治などで、何らかの効果が発揮されることに期待が寄せられています。
6.【飲泉効果】 飲泉により水素が体内に浸透
おびなた飲泉場にて、溶存水素濃度160ppbの水素水を
おびなた飲泉場にて、溶存水素濃度160 ppb( コップ内の濃度) の水素水200 cc を飲泉後、3 分ごとに呼気の水素濃度を測定し、飲泉前と各測定点との水素濃度の差を求めてみました。対照データとしては、市販のミネラルウォーターを同量飲んだ場合のデータを取り上げました( 青線)。
飲泉直後から水素濃度が上昇し、6 分後から18 分後までの区間で、ミネラルウォーターを飲んだ場合と比較して、有意な差があることが確認されました。
入浴の場合と比べ、結果のあらわれ方に違いが
入浴の場合と比べ、結果のあらわれ方に違いがあるのは、全身から水素が浸透するのではなく、消化器官からの浸透のため、入浴よりも体内に行き渡るのに時間を要するためです。また、その効果が入浴よりも長く続くのは、溶存水素濃度の違いによるものと考えられます。
市販の水素水に比べると溶存水素濃度は低いですが
市販の水素水に比べると溶存水素濃度は低いですが、それでもこの実験で、おびなた飲泉場での飲泉により体内に水素が浸透することが明らかになりました。

入浴・飲泉ともに、これらの結果のみをもって何らかの具体的な効能・効果に結びつけることまではできませんが、少なくとも溶存水素を含む” 水素泉( 水)” として最低限の資格を有することが証明されたことになります。